園のことさらに
その8
そのほか



 誰にでも、心のふるさと、懐かしさがやまない場所というものが、きっとあるものだと思います。私が生まれたのは、東京の大田区という町。私は、そこで生まれ、幼稚園を卒園し、小学2年の1学期まで過ごしました。その後、現在に至るまで、3回ほど引越しをしていますが、ほかのどの町よりも、7歳までしかいなかったその町に、はるかに深い懐かしさを感じるのです。それはおそらく、見るもの、聴くもの、感じること、そのすべてが、まだ何にも染まっていない真っ白な心の中に、新鮮な驚きや感動をもって刻み込まれていった場所であったこと、そして、幼い頃に離れてしまって以来、全く訪れることがなかったことが、よけいに私の憧れや懐かしさを募らせたのだと思います。私の中で、あの町の風景は7歳の時に見た風景のまま、ピタリと時間を止めてしまっていたのでした。

 先日、その懐かしい場所を訪れました。実に、30年ぶりのことでした。自分の住んでいた家のあった場所や、その周りの道を歩いてみました。こどもの頃、あんなに広いと思っていた道は、実は一方通行の細い道でした。あんなに高いと思っていた塀も、今では軽く手が届きます。ずいぶん遠いと思っていた、自宅からみのり幼稚園までの道のりも、5分とかからない場所にありました。懐かしい、みのり幼稚園。私の通った幼稚園です。毎日毎日、ただ遊ぶことだけが一日のしごとだった幼い頃の日々。私は、幼い頃の出来事を、自分でも驚くほど鮮明に覚えているのですが、みのり幼稚園では、ひたすら楽しく遊びまわっていた記憶ばかりが残っています。いもほり。プール。餅つき大会。はなまつりの日にいただくあまちゃの、それはそれはおいしかったこと。優しかった先生。大好きだったともだち。お弁当だけを幼稚園のかばんに入れて、毎日毎日、遊ぶためだけに通っていた、楽しく、きらきら輝いていた日々・・・。そんなことを懐かしく想い出しながら、幼稚園の前で写真を撮っていますと、幼稚園の中から出てきた先生が、「よろしければ、中へどうぞ」と、優しく声をかけてくださいました。私はとてもうれしくて、思わず、「こんにちは。実は私、みのり幼稚園の30年前の卒園生なのです・・」とお伝えしますと、先生の目がぱっと明るくなって、「それはまぁ・・よく覚えていて訪ねてくださいましたね。どうぞどうぞ、中へ入ってください」と、お休みの日(この日は日曜日)にもかかわらず、わざわざ鍵まで開けてくださり、お教室の中までいろいろと案内してくださったのです。

 中に入ると、そこには見覚えのある風景が拡がっていました。まるで、タイムマシーンで30年前まで時間をさかのぼってしまったかのよう・・・。お教室の中の小さな椅子。あんなお人形用のような椅子に自分が座っていたなんて、ほんとうに不思議です。小さな頃の私が、今にもお教室から元気よく駆け出してきそうに思えました。それから、廊下、階段をのぼって、体育館。はなまつりのときには、ここでお参りをし、先生からおいしいあまちゃをいただきました。卒園式のときには、この体育館で「おもいでのアルバム」を歌ったことを覚えています。優しい思い出が、たくさんたくさん詰まった、私のみのり幼稚園・・・。

 私は屋上に出て、青く広がる空を、透けるような雲を、そっと見上げました。いろいろな想いが、心の中を廻っていきました。30年、という月日の中では、いろいろなことがありました。そうして今、再びこの懐かしい場所に、私は戻ってきました。幼い頃の私には到底気づくことはできませんでしたが、今なら、はっきりとわかります。自分が、どれだけたくさんの人達に守られ、愛され、生かされてきたのか、ということを。私はこの場所で、溢れるほどの愛を注がれ、生きていく基盤となる豊かな心を育てていただいたのでした。今回、みのり幼稚園を30年ぶりに訪れたことで、遠いあの日の自分に再会できたような気がしました。ほんとうにかけがえのない、すてきな体験をさせていただきました。 心地よい風に吹かれながら、ふと屋上から下を見おろすと、背の高いイチョウの樹が、「おかえりなさい」と、ささやきかけてくれました。降りそそぐ春の日差しは、30年という時間を経て帰ってきた私を、変わらない暖かさで包んでくれました。突然訪れた私を、快く招き入れてくださった藤澤先生、園内を親切に案内してくださった真理子さん、本当にありがとうございました。これからも、みのり幼稚園に集うこどもたちが、明るく健やかに育ってゆきますことを、心よりお祈り申し上げます。
菅野 裕子(かんの ゆうこ)
●●かんの ゆうこ●●
1968年、東京生まれ。「見えるものの奥にある、もうひとつの物語」をテーマに、透明感あふれる言葉で、心にそっと響いていく物語の世界を創作している。おもな絵本として「大切な ともだち~Remember me」(大和出版)、「月のかけら」(佼成出版社)、童話集として「空色のシエル」(講談社出版サービスセンター)などがある。
星うさぎと月のふね

今日はリセルのおたんじょうび。
リセルは、パパとママから
きれいな包装紙につつまれた、
プレゼントの箱をもらいました。
いったい、なにが入っているのでしょう。
リセルはわくわくしながら、
プレゼントのふたをあけました。



 当園では、これまで毎年3月卒園児の保護者の方を対象に、幼稚園生活を振り返った思い出を一言、二言自由な形式でつづって頂き、お別れの卒園記念文集としてまとめておりました。

 その中で近年の保護者の方の卒園記念文集より“子どもへのメッセージ”として頂いたお父様からの文章を、ご本人のご了解をいただき、お子さまの名前をみのる君と仮名にした上でご紹介させていただきます。文章の中の「パパ達も協力するから頑張ろうね。」 の言葉がとても素敵で、載せさせていただきたいと思いました。


 お前はとても大きな赤ちゃんでした。お前がうまれた時、パパが病院の廊下でお前が無事に生まれる様に祈っていると、看護婦さんが微笑みながらやって来て、「おめでとうございます。大きな男の子でとっても元気に泣いていますよ。」と教えてくれ、ほっと胸をなで下ろしていたのでした。そして生まれたてのお前の顔を早く見たいとワクワクしながら待っていたのです。

 すると突然分娩室が騒がしくなって、何人もの看護婦さんが彼方此方走り出したのです。パパはみのるが無事に生まれたと聞いたばかりだったので「大変だなあ。」とまるっきり他人事。その直後にみのるが大きな声で泣き過ぎた為に酸欠を起こしたと知ってビックリしたのです。
 
 生まれた瞬間からこんな調子。幼稚園生になっても自分の感情を上手くコントロール出来ずに大泣き大騒ぎ。この先この子はどうなるのだろう、と不安でした。

 でも、みのり幼稚園の先生方の、私たち親よりも一生懸命な指導のおかげで、この三年間に随分と成長してくれました。
 
 「みのるはわがままな子だ。」と怒っていたばかりの私に「そうではない、自分をコントロールすることが苦手なだけだ。」と気付かせてくれたのも先生方でした。

 みのる、お前は優しい子です。三人のきょうだいの中で一番優しい。そして自分のやりたいことをやっている時の集中力も大したものです。

 まだまだ自分を上手くコントロール出来ていないけれど一生懸命に努力しているのは分かります。パパ達も協力するから頑張ろうね。そして、二十歳になったとき自分よりも他人を思いやれる素敵な大人になっていたら、その人生の始まりには幼稚園の先生方の愛情と支えがあったことを思い出し感謝してください。
パパより

  みのる君が在園中は毎日、毎日様々な出来事が展開し、私たち教職員全員がとてもいい勉強の機会を頂くことができました。私たちは、子どもの抱える課題と真正面から向き合い、行動と心を理解し、園全体で連携することの大切さや、専門的に対応することの大切さを学び、そして親御さんと思いを一つにして取り組んでこそ初めて教育は効果があることを、彼の成長から改めて実感することができました。

  お子さまの成長を大きく、温かく、ゆったりと見守られるご両親からも、学ばせて頂くものが多く、日々悩まれながらも園を信頼し、気持ちよくご理解とご協力を頂けましたことに心から感謝の言葉を申し上げたいのはこちらのほうです。

  何よりみのる君自身が、人への信頼感を失わずに、自分の成長を自覚し、自信をもち、輝いた笑顔で就学を迎えてくれましたことに教職員一同深い喜びを感じております。そしてまた親御さんとこの喜びを同じ大きさで共有できました幸せを今ありがたく感じております。