『新児童福祉法に移行して1年』副部長 伊 澤 昭 治
新児童福祉法が施行され、ちょうど1年が経過しました。改正案の段階より措置から選択に 移行することによる公的責任の問題や競争原理導入による質の低下、保護者の選択と情報公
開、保育の質の確保、施設整備の問題、民間参入問題等々多くの議論がなされました。 これらは全て少子高齢化=育児・就労支援、財政問題に起因することはご承知の通りです。
このような背景の中で保育所は他の社会福祉施設よりも制度改革の面では一歩先行 し、現在に至っておりますが現場ではどうでしょうか? 平成10年3月と同年4月とでは心配していたような激変状況は生じず、措置も選択も単に
名前が変わっただけであるような錯覚に陥ってしまうほど緩やかな移行であったと思います。 反面、利用者主体を基本理念に改正され選択権を与えられた利用者はどうでしょうか?新聞
紙上・TV等の報道により制度が変わった事を知り、見学希望や問い合わせが以前と比べぐん と増加しました。中でも入園に関しては直接入所と言う言葉に、希望すれば直ぐに入所でき
る感覚で来園される保護者もありました。電話での問い合わせ内容も質問事項が整理され、 要点のみを的確に聞いてこられる方や、すでに他の保育園を数園見学され自分の希望する保
育内容と利用形態を探す方も多く見受けられました。利用する側は確実に変化していること に反して「最終的な決定権は市町村にあるので入所については即答はできないんです……」
としか返答できない歯がゆさも今だあります。入所状況によっての定員枠については緩和さ れ柔軟な対応がとりやすくなりましたが、単に数字上の緩和は実際余裕スペースが確保され
ていない点と、入園している子どもたちの保育環境を保障する責任からも多くの受け入れを 柔軟に対応することは不可能に近い現実があります。なぜなら建設当初、基準面積に縛られ、
基準単価によって建設された現施設では定員での受け入れが最大限(最低基準)となってい るからです。せめて、待機児解消対策を検討するならば分園方式を含め、受け入れる箱物
(施設)についての検討を今まで以上にお願いしたいと思います。これは単に補助金の上乗 せということではなく、法人がその地域において必要なときに事業拡大(又は縮小、事業変
更)を可能となるような長期的資金計画を可能とするシステム作りが早急に必要であると言 うことです。 合わせて平成11年度予算での増額分や自自公3党協議による「少子化対策検討会」での基
本方針の一つにもあるような「市町村に対する少子化対策事業」が財政難を理由に県や市町 村で止まらず、本来の目的のために現場で実現できることを切に期待いたします。
また、再三議論に上がる保育時間と開所時間の問題、利用時間と保育料の関係については なお理解されにくいのも事実です。保護者側も開所時間がイコール保育時間であるかの認識
が強くなっております。勿論保護者の遠距離通勤や残業等の理由により保育時間が長時間化 することは致し方ないとしても、現在の11時間利用者と短時間利用者の保育料が同じである
という格差が生じない配慮が必要であり、保護者自身の負担保育料が何時間分の保育につい て支払っているのかを明確にする事で、どのような利用の仕方であっても、皆同一の利用で
あると相互に理解しやすくなるのではないでしょうか?
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新制度に移行して1年、大海は思いのほか穏やかな顔を見せましたが、水面下では確実に 次の大きなうねりが押し寄せてきている事を経営者側は今まで以上に五感を研ぎ澄ませ、
数年先の状況をしっかり見据えた確実な取り組みが求められます。 そしてハード面とソフト面の足腰をしなやかにさせておき、それぞれを取り巻く環境が何 より多くの子どもたちの心地よい健全な育ちの場として成熟することを願いつつ。
1.保育所保育指針の改訂に当たって 児童福祉法の制定に伴い保育所制度が創設されて以来、今日まで50年余りが経過した。 この間、高度経済成長等を社会的背景とする保育に欠ける児童の増加に対応した保育所の整
備が図られ、一部の地域を除き、全国的には保育所の量的な水準が確保された。その後、女 性の就労の増大や就労形態の変化等に伴い、延長保育、一時保育、障害児保育等のほか、産
休明け・育児休業明けの保育や低年齢児保育の充実等、多様なニーズに対応した保育サービ スを提供するなど、保育所は子育てと就労の両立支援施設として重要な役割を担ってきた。
また、都市化や核家族化等は家族及び地域住民の相互扶助機能や世代間の育児文化の伝承 機能を低下させた。これにより、近隣から孤立し、育児に不安や疲れを感じたりする親が増
え、更に、それが原因と考えられる児童虐待が増加する兆しをみせてきている。特に、乳幼 児期は生涯にわたる人間形成の基礎を培う極めて重要な時期であることから、子育てを支援
する基盤を形成することが緊要な課題となった。一方、保育所は地域の中で最も身近な児童 福祉施設であり、そこで毎日生活している乳幼児の保育を通じて家庭養育を支援するための
育児に関する知識、経験、技術を蓄積してきている。そのため、保育所における地域の子育 て家庭に対する養育支援についての期待も高まってきた。平成9年6月の児童福祉法等の一
部改正により、入所方式がこれまでの行政処分による措置制度から、利用者の選択による自 由契約方式に改められるとともに、保育所は保育に支障がない限りにおいて、乳児、幼児等
の保育に関する相談に応じ、及び助言を行うように努めなければならないこととされ、これ からの保育所は、子育てと就労の両立支援だけでなく、地域の子育て家庭を支援するセンタ
ーとしての役割を担うことになった。これらの状況を踏まえ、昨年10月19日に中央児童福祉 審議会保育部会(以下「保育部会」という。)の承認の下、保育所保育指針検討小委員会
(以下「検討委員会」という。)を設置し、現在まで関係団体の意見聴取も含め、8回にわ たる審議を行い、平成2年に制定された現行の保育所保育指針の改訂に当たり保育部会から
提案された検討課題を中心に審議を行ってきた。検討課題によっては、未だ十分に議論が深 まっていないものもあるが、これまでの検討状況は以下のとおりである。
今後は、検討小委員会において、更に検討を進めるとともに作業部会を設置し、具体的な 改訂内容の見直し作業を進め、6月末をめどに保育指針の改訂試案を作成し、保育部会に報
告する予定である。
2 保育所保育指針改訂の基本的考え方 保育所は、保育に欠ける乳幼児が生涯にわたる人間形成の基礎を培う極めて重要な時期に、 その生活時間の大半を過ごすところであり、家庭や地域社会と連携を密にして家庭養育の補
完を行い、養護と教育が一体となって、豊かな人間性を持った子供を育成するところに保育 所の特性がある。 保育所保育の実施状況をみると、現行の保育所保育指針による保育が概ね円滑に展開され
ているものと考えられることから、保育所保育指針の改訂にあたっては子どもの最善の利益 の尊重のために、現行の保育所保育指針を基本とし、更に、保護者との協調、地域の子育て
支援等を、考慮して、以下の点を改訂する。
(1)第1章 総 則 現行保育指針に示す内容に加え、次の事項を加えることを検討する。
○現行の保育所保育の基本は家庭と地域社会と連携し、家庭養育の補完をすること
となっているが、今回の児童福祉法の改正により、保育に支障がない限り相談・指導の業務 を行うことになり、子育て家庭の支援という役割も保育所に課せられた。そのため、保育所
の本来業務である保育を家庭や地域社会と連携を密にして家庭養育の補完を行うこととする 観点を保持しつつ、昨今の保育所の機能や役割の拡大を踏まえ、保護者と協力しあって保育
するとともに、子育て支援についても総則に記載する必要がある。
(2)保育の原理 (2)保育の方法 現行保育指針に示す保育の方法に示されている内容に次の事項を加えることを検討する。
○児童の人権に十分に配慮するとともに、文化などの違いを認め、尊重する心を育てるように配慮する。
○児童の人権を辱め、身体的苦痛を与えることなどがないように配慮する。
○男女共同参画社会に鑑み、乳幼児の発達に性差や個体差にも留意しつつ、固定的な男女役割分業意識を植え付けることのないように配慮する。
(3)保育の内容構成の基本方針 (2)保育の計画 現行保育指針に示す内容に加え、次の事項を加えることを検討する。
○保育者自らの保育については常に自己点検・自己評価を行うことを再検討する。
(4)第3章 6ヵ月未満児の保育の内容 現行保育指針に示す内容に加え、次の事項を加えることを検討する。
○産休明けの保育に欠ける乳児の入所が増加しているため、現行6ヵ月未満児の保育の内容について低月齢児保育の充実を図る。
(5)第3章から第10章 現行保育指針に示す内容に加え、次の事項を加えることを検討する。
○第2章の子どもの発達における基本的理念を具体化するため、保育者の姿勢や関わりのポイントを示す。
○幼稚園教育要領との整合性を図るため、心身の健康を培う活動、幼児期にふさわしい道徳性、自然や社会での体験、知的発達を促す教育、自我の芽生え等幼児期にふさわしい発達特性を踏まえ、ねらい及び内容に生きる力の基礎を育てることについて加えることを検討する。
○教育と一体となるべき養護については、3歳以上児は「基礎的事項」として捉えている。これは生命の保持と情緒の安定を課題とするものである。しかし、各年齢ごとには明確な違いを示すことが難しいため記載方法について再検討する。
(6)第11章 保育の計画作成上の留意事項 現行保育指針に示す内容に加え、次の事項を加えることを検討する。
○異年齢児保育を実施する場合の留意点等について記載する。
○保育の計画作成にあたり、自我が芽生え、他者の存在を意識し、自己を抑制しようとする気持ちが生まれる等乳幼児期の発達の特性を踏まえることを強調する。
○保育の計画の作成にあたっては、地域の実態等に加え、保護者の意向も踏まえることを考慮する。
○職員、職種間のチームワークについて記載する。
○保育内容等の情報を保護者や地域社会に提供・開示し、理解を得るよう努める等、家庭、地域との連携のあり方について再検討する。
○小学校や関係機関との連携のあり方について再検討する。
(7)第12章 健康・安全に関する留意事項 現行保育指針に示す内容に加え、次の事項を加えることを検討する。
○産休明け保育に対応する保健上の記載事項について再検討する。
○SIDS予防対策について記載する。
○アトピー性皮膚炎対策について再検討する。
○予防すべき伝染病について再検討する。
○予防接種について再検討する。
○離乳食について再検討する。
○児童虐待の対応について記載する。
(8)多様なニーズについて新しく章を設け、以下のことについて検討する
○乳幼児の保育に関する相談・助言について記載する。(守秘義務、関係機関との連携等も含む。)
○延長保育、夜間保育、障害児保育、一時保育、地域活動事業における留意事項等について記載する。
○職員の研修等について記載する。
(9)年齢区分について 現行保育指針で示している年齢区分について次の事項を検討する。
○現行保育所保育指針の年齢区分による保育内容の示し方は、クラスの全員の均一的な発達の基準のように誤解されやすいため、一人一人の乳幼児の発達過程であるということを強調すること。
○あわせて、「年齢区分」の名称を「発達過程」に改め、現行の区分は踏襲すること。
(10)その他の検討事項
○専門的用語の概念規定についてはわかりやすく説明する。
○保育関係者のみが理解できる文章表現ではなく、できる限り保護者や社会一般にわかるように記載することを検討する。